骨休め
数年ぶりに箱根に行ってきた。
この春から人生初の忙しさで、休みをすっ飛ばしたのも一度や二度ではなかった。先週もまた休めず、しかしこんなことではいかんと思って、二日間休みを取ったのである。
だから箱根行きは、人生初の骨休みと言ってよかった。だいたいこれまでは、骨休めするほど仕事で疲れたことはなく、またそれほど仕事もなく、どちらかと言えば、明らかにヒマな人生を送ってきている。
だからしみじみ、箱根へ向かう車の中で、
「これが骨休みなんだなあ」
とぼくは呟いていた。
骨休めなのだから、のんびりすればそれでいい。
伊豆高原から伊豆スカイラインに960円も払って乗っても、一面霧で何も見えない。ふつうなら「通行料を返してくれ!」とでも言うところ、なにせ骨休めである。全然問題にしなかった。
伊豆スカイラインから熱海峠、十国峠を経て芦ノ湖に降りる。ここでもまた霧の中である。一応箱根の関所を見学し、強羅に向かった。途中、彫刻の森美術館近くのそば屋で鴨南蛮そばを食べ、強羅から左に折れて、目指すはポーラ美術館である。
入場料は1800円。高っ! さらに駐車場まで500円取られる。ここでもぼくはたいして文句は言わなかった。なぜなら、美術館の入場料は妻の負担だったからである。
高いけれども、名画揃いのところはさすがだ。大好きなルソーの作品も良かったし、今度のぼくの小説で登場するフランス・ブルゴーニュ地方の小さな町、オーセールを描いたシニャックの作品も明るい色調でよかった。大好きなスーラもあったし、シャガールの描いた小さな町の家々がとても可愛かった。
ガラス張りの一階からはヒメシャラの林が見通せ、また広々とした贅沢な空間は、ゆったりとした気持ちで絵画鑑賞できてとてもよかった。骨休めなのでなおさらである。気持ちがすっきりとした。
どうしてだろうか、名画を見ると心の中に溜まった廃棄物のようなものがきれいになくなる気がする。逆に素人の絵を見せられると、胸の中がざわつく。
その後、三時にはホテルに入ってのんびり湯に浸かり、部屋で一杯飲んでごろごろする。エステに行っていた妻が帰ってきて、テレビを観ていると、七時半の夕食だ。
仲居がいないのもいいし、レストランでの夕食もいい。最近はおもてなしとは名ばかりの押し付けがましいサービスのないホテルが人気のようだ。
平日にもかかわらず、レストランには大勢の客がいた。オシャレな和洋折衷料理に舌鼓を打って、食後は夜の町を散策である。
翌朝はチェックアウトギリギリの十一時頃まで、妻はスケッチ、ぼくは登山列車に乗ったりして過ごし、御殿場のアウトレットでショッピングをして帰宅した。
ドライブ、温泉、美味しい料理にショッピング、骨休めとはこういうものかと思った二日間である。
たしかに頭と財布は空っぽになった。
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