2009年11月 6日 (金)

贅沢な夕方ドライブ

 このところ空気が澄んできた。

 ビーチに行くと、伊豆の島々もよく見える。左手から大島、三角形の利島、ちょっと大きめの新島とその隣が平べったい式根島である。透明度の高い日は、新島の崖の岩肌までしっかり見える。また奥の三宅島がくっきりとする。

 右の手前にあるのが神子元島灯台、その前を海の銀座みたいにタンカーや運搬船が行き来する。神子元島灯台周辺に集まっているのは、漁船か釣り船である。昔からの漁場だ。

 そして、場所によって灯台の右に見えたり左に見えたりするのが神津島である。

 これから春霞が始まる時期までは、海の見える家からは、夜の間、漁火もきれいに見えることだろう。

 建国記念日の日、天気もいいので、妻が夕日を見に行こうと言い出した。

 西伊豆は夕日の名所が多い。その中でもわりと家から近い奥石廊崎に行った。

 日没時間は四時四十五分だ。四時過ぎに家を出る。

 西日が眩しく、サングラスをしてこなかったことを後悔した。伊豆最南端の海岸を行く。複雑な地形のリアス式海岸とその向こうに広がる太平洋が美しい。やがて海抜が高くなる。誕生日プレゼントに妻からもらったカシオのプロトレックで海抜を確かめる。十メートルと出た。なんか間違っている。海を見下ろすと五十メートルくらいはありそうだ。

 この時計はちょくちょく見るが、我が家にいても、海抜六十メートルと出たり、十五メートルだったりする。六十メートルが正しいはずだが、気圧との関係で誤差が出ることもあるのだ。

 奥石廊崎は国定公園になっている。あいあい岬の駐車場に車を止める。別に奥石廊崎でいいのに、どうでもいいようなつまらない名前を付けるあたりがガッカリだ。しかし西伊豆には恋人岬という岬があって、ここで恋人同士がベルを鳴らすと永遠の愛が約束されるという。休みの日など大渋滞である。たしか夏の地震でベルが落ち、早速修復したとか。

 あいあい岬にもベルはあった。ところがこちらは人気がないのか、ベルを鳴らす木の棒が、破損していた。

 あたりはユウスゲの群生地だ。紀宮妃がお嫁に行く前に、美智子さまと最後の家族旅行で散歩を楽しまれた場所である。

 美しい緑の海岸線と深いブルーの色を湛える駿河湾、湾の先には南アルプスが見え、薄い陸地を目で追っていくと、かすかに御前崎まで見通せる。

 太陽が徐々に沈む。東側の空は暗くなり、オレンジ色に燃える太陽の上の空が淡いブルーできれいだ。

 これぞミケランジェロのブルーだ。バチカンのシスティーナ礼拝堂の天井画『最後の審判』を染めるブルーは、落日のブルーなのかもしれない。

 オレンジ色の太陽が海の彼方に沈んだ。どうしてか、太陽が海に沈む時には雲が現れるものである。その確率は高いと思うが、いかがだろうか。

 帰り道、山の向こうにまん丸の大きな月が出ていた。

 都合一時間ほどの、贅沢な夕方ドライブだった。

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2009年10月30日 (金)

今年の海は

 このところ、連日下田漁協前からテレビのレポートをやっている。そう、八丈島近くで遭難した漁船の報道だ。遺体で見つかった船長は下田の人である。心よりご冥福をお祈りする。

 こういった遭難や難破、奇跡の救出があって、海は危ないことがあらためて認識される。

 東京などに住んでいた頃は、数あるニュースの一つとして聞いていたが、やはり海の近くにいると、さらに実感が沸く。

 先月だったかも、遊びに来ていた若者が二人、海に持っていかれた。

 下田の海は九月でも十分泳げるほど暖かい。しかしその日は、台風の影響で高波が立っていた。

お盆を過ぎるとクラゲが出ると言われているが、これは地方によるだろう。下田でクラゲはあまり見ない。クラゲに刺されると嫌なので、海に入るのはよしておこう。そんなことを言う人は多い。

これは、九月になると波が高くなるために、クラゲよりも高波から人々を守るために、言い伝えられてきた話のような気がする。高波と言ってもピンと来ないが、クラゲなら肌で感じられるからである。

だから前述の若者二人も、高波の中にはしゃいで入ったのだろう。十人ほどのグループだったから、全員で入ったのかもしれない。しかし気が付くと二人の姿がなくなっていたのだ。

報せを聞いた民宿の人が119番し、レスキュー隊やパトカーが到着、海上保安庁の巡視船やヘリコプター二機が捜索に当たった。

上級者のサーファーならば入れるほどの波だったが、さすがに捜索しているのだから入るのはみんな遠慮していた。波に持っていかれた二人の仲間なのだろう。若い女性が数人、水着にタオルを巻いたままの恰好で茫然と海を見つめていた。

その日も、翌日も一日中ヘリの音が聞こえ続けた。

遺体が発見されたのは三日後のことである。凪いできた海に、ダイバーが潜って見つけたのだ。荒れていて透明度が低くなっていたために、海中に沈んだ遺体がそれまでは見えなかったのである。

一人はビーチから百メールのところで、もう一人は四百メートルのところで発見された。

浜から百メートルと言うことは、高い波のときなら、ぼくらがサーフボードにまたがって波待ちしている場所である。

年に何人も海の犠牲者が出る。近所に住む友人の奥さんのお父さんもまた、黒潮の流れる近くで遭難し、三ヵ月後に船だけが見つかったそうである。

以前、作家でイラストレーターの沢野ひとしさんと飲んだ時、彼がこんなことを話した。

「大五君、海洋文学をやってみたらどうかね。せっかくこんなに海の近くにいるんだ。題材には不足しないだろう」

「そうですね」

「だけどもあれだ。日本じゃなぜか海洋文学が育たないんだな。これといった海の物語がないし、出しても売れない。なぜだろうね、海に囲まれた島国なのに」

「売れないなら、難しいですよね」

 沢野さんらしく、人を煙に巻いたような会話でおわったのだが、実は、海の物語もずっと考え続けている。

 さて、実現するのはいつのことやら。

 それにしても今年は海難事故の多い年である。

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2009年10月23日 (金)

気が気ではない!

 新刊『笑える! 世界の七癖 エピソード集』(PHP新書)が発売されて一週間が経つ。

 もちろん出る前から、売れるかどうか気になってしょうがなかった。とくに今回は、そこにマーケットがあると信じて投入した本なのだ。担当編集者はもちろんのこと、営業も力を入れてくれている。初版も当初発行予定部数より多くなった。

 ところが出だしが芳しくないのだ。

 取りあえず参考になるのがアマゾンのランキングである。

 一昨年出版した『日本は世界で第何位?』(新潮新書)は、一週間目で214位を記録した。次の月曜日の紀伊国屋書店WEB新書ランキングでも26位になり、この頃にはすでに三刷が決定していた。

 売れる本は出足がいいのが一般的で、出足が振るわなければ、そのまま売れないことのほうが多い。

 今回はどうかというと、発売日ですら、アマゾンの順位は180000位台と、「なんじゃこれは?」という事態であった。一週間経っても17000位くらいで、まったく振るわない。

筆者は当然肩を落として、関係者のみなさんに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

うれしいことより、申し訳ないことばかりが多いので、売り上げには鈍感になってもよさそうなのだが、まったくそんなことはなく、売れないのはすべてが筆者の責任と、痛感させられるのだ。

緊張するのか萎縮するのか、体のバランスが悪くなり、寝ても覚めても本の売り上げが気になる。真夜中に起きてアマゾンを見ると、12000位と少しくらい順位が上がっても、新書新刊にしては情けない数字だ。

頭は朦朧とし、身の置き所がないような気持ちに苛まれるのだ。

売るのが難しい小説でも、やはり同じである。

ただ小説の場合は、マーケットを開拓する気持ちのほうが強い。マーケットとはすなわち愛読者のことで、どうやって愛読者を増やしていくか、そのためにはどのようにして面白い本に仕上げるか、ストーリーは、人物はどうしたらいいのかと考えるのである。

今は新作の小説に取り掛かっている。メインの舞台は新宿。話の進み具合から、再来週あたりに主人公が海外に行くことになる。

ランキングの低さを見て苦しみながらも、そこは「エイヤッ!」と力を振り絞って、執筆に熱中する。日々考えながら地道に、ある意味楽しく制作作業が続く。楽しいのは、登場人物たちを動かしていると、彼らが、作者が思っても見なかった動きをしてくれ展開が変わるからである。ある程度のストーリーは考えているものの、出来上がりまで着地点は見えない。

そのような満ち足りた仕事環境に、ランキング結果は悪影響を及ぼし続けた。孤独に耐え切れず、恐るおそる編集者に、

「どうですか?」

とメールしてみる。すると、

「スタートダッシュとはいかないようだったようで」

 と歯切れの悪い返答だ。編集者は、いい話は早くしてくれ、悪い話はなるべくしないのが特徴である。例えばボツ原稿など、わざわざ返事しないことも多いのだ。

さて話が逸れてしまったが、今回の新作である。

処々の事情から、昨日ようやく新聞広告が出た。

するととたんにアマゾンの順位が動いた!昨日の夕方で3000位台だ。今朝見ると、2281位まで躍進、午後五時半現在で1564位である。

ダメなのかどうなのかと心配していたところに、一週間経ってうれしい反応だ。

月曜日の紀伊国屋では何位に付けるのか?

ぼくの本は週末向きで、あるいはサラリーマンの読者は、行きの通勤ではなく帰りの通勤中に読むことが多いと分析されている。それは決して読者の仕事を鼓舞するような内容ではないからだ。

だからこそ週末の売れ行きが大事だ。

さてどうなるか?

低位に甘んじ、やきもきし通しで、精神的に勝手に追い詰められた週だった。

なんにもしないのに、疲れたあ。

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2009年10月16日 (金)

今さらセカチュウ

 台風が通り過ぎてから急に涼しくなった。とくに朝晩は気温が下がった。今朝の我が家で十五度である。

 山の中にある家なので、昼間でも涼しく、とたんに海にサーフィンに行く気が失せている。海水温は二十度以上あるので、全然問題ないのだが、気持ちがこの涼しさに慣れないといったところだ。

 午前中みっちりと仕事をして、昼食、軽く昼寝して起きると午後二時である。四時までをどう過ごすか。サーフィンに行くか。一時間ほどテレビでも観て散歩をするか。四時からはまた六時まで、一日の仕事の仕上げにかかる日々である。

 サーフィンに行かないので、テレビを観ていたら、『世界の中心で愛を叫ぶ』の再放送がTBSでやっていた。

 白血病の話だろ。可哀想でいやだな。だいたい恋愛モノなんて読まないし、ベストセラーでも知ったことかと高をくくっていた。

 ところがである。チャンネルを変えたついでに見覚えのある風景が目に入ってきたのだ。

 それもそのはず、テレビ版『セカチュウ』の舞台となったのは、下田のお隣、松崎町なのである。

 自室で絵を描いていた妻を呼ぶと彼女は飛び出してきて、ついにテレビの前に正座した。これは彼女の没我の境地の体勢である。

 今日で第3回目だったのだが、これがいい。

 なんといっても映像が美しいのだ。それも知った風景ばかりだ。いつもきれいだとほのかに思っていたところが、映像を通して観ると、その美しさが倍加されるのである。

 天使のような綾瀬はるかは可愛いし、感受性が豊かな役を演じる山田孝もいいのだ。

 綾瀬はるかが演じるアキの自宅は、妻の知人Mさんの自宅だ。

「女房が料理を作っている時に、綾瀬さんが後ろから、何作っているんですか? って、あの笑顔で言ったんだって。女房がさ、そりゃ可愛かったって言っていた」

 とMさんが言っていたことがある。

「コロッケパン、買ってきてあげたことあるでしょ。あれが売ってるの、この店よ」

 とテレビを観ながら妻が指差す。

 ドラマの中では、学校で販売される人気のパンとなっている。

 二人がよく行く丘は牛原山だ。撮影のために植えたアジサイを根付かせようとしたものの、土が合わなかったのか、ぱっとしないそうである。ただしこの場所から見る松崎の町は、テレビどおりに美しい。友人のTさん家族と遊びに行った思い出がある。

 Mさんの家には、いまでもちょくちょく訪問者があるという。もちろんセカチュウにちなんでだ。

 セカチュウは韓流ブームと相俟って純愛ブームを作り、時流に乗って大ヒットした。

 だからぼくは、女性の観るもの、読むものだと思っていた。

 ところが松崎町の人たちの話によれば、セカチュウで松崎を訪れるのは、実はオタクっぽい男性のほうが断然多いと言うのだ。

 普通は男が恋愛小説を読むことは少ないだろう。

 だが、セカチュウに関しては、男が読んだ。そこにミリオンセラーの要因があったのではないか。

 毎日テレビを観ながら感動しているぼくは、三回観ただけでテレビ版の虜だ。

 それにしても、背景の松崎の自然が美しい。

 夕方散歩に出かけると、セカチュウの感動を引き摺って、色が変わり行く近所の山々や透き通った海にも感激している。

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2009年10月 9日 (金)

ご無事ですか?

 今年は夏から災害がかすめていっている。

 まずは八月、ちょうど実家に帰省していたときのこと。早朝、かなりの揺れに驚いて飛び起きた。すぐにテレビを付けると震源地は駿河湾である。下田は震度5強だ。

 これまでそれほど大きな地震を経験したことはない。ずっとテレビを付けて、情報を集めた。午前九時になってから、近所の人の自宅に電話を入れると、「なーに、たいしたことはなかったよ」と言う。食器棚も倒れなかったとか。

 しかし我が家は大丈夫だろうか? 恐るおそる帰ってきたのだが、倒れていたのは写真盾くらいで、ホッとした。留守電には、誰かわからない人からも、「ご無事ですか?」と伝言が入り、メールを開くと「何かあったら手伝いに伺いますから」といったメッセージまであった。

 人の温かみを感じた。

 九月の終わりには、サモアで大地震があった。

 ニュースの第一報を聞いて、心配になったのは、おがわかずよしさんの安否だ。すぐにメールした。彼はツバルに住んでいる。海抜0m。地球温暖化の影響で島が沈んでしまうと危惧されている国である。津波など来たらひとたまりもないではないか。

>ご無事ですか?! おがわさん!

メールを送ると、すぐの返答である。

>つい今し方、隣の人が、7時半に津波警報が発令されたと言ってきました。時計を見ると、現在7時40分です(笑)。サモアとツバルの間には、トンガ海溝があるのだよ。その深さは一万メートルを越える。おかげで津波はこの海溝に吸収されたようですな。もちろん津波が押し寄せれば、ツバルはひとたまりもありません。

そして今週である。今度は台風が迫ってきていた。予想進路からすると、伊豆は外れたが、わが実家はほとんど直撃である。母親と妹に、いざとなったら避難するよう電話した。

翌朝、予想通り台風は直撃した。

>無事か?

と妹にメールを送ると、

>壁のトタンが飛んだよ。停電してます。

との返事だ。ともかく、無事で何よりだった。

そうして台風の過ぎた昼前に、待望の新刊見本が我が家に届いた。

いろいろな人にネタをもらってできた本である。おがわさんにも南太平洋での日本人に関する面白話をもらった。

>南太平洋のさる国で、このところ若者がちゃらちゃらしていかん! ここは礼儀正しい日本の若者に来てもらって、彼らを手本に、我が国の若者をしゃんとさせようではないか。長老たちは話し合い、日本人の若者を招待した。訪れたのは茶髪の若者で、ジーンズの穿き方すらだらしない。その国の若者よりももっとチャラチャラしていて、長老たちは肩を落とした。

この話のニュースソースは、現在日本大使をつとめておられるさる国の人である。おがわさんの紹介で、インタビューをお願いすると、丁重に断られてしまった。なぜなら、日本大使が日本の若者の悪口になるようなことをちゃらちゃら言うべきではないからだと想像できた。

そもそもぼくがインタビューなどお願いしたことが間違いだった。

おもしろい話だけれど、今度の本には掲載できなかったので、ここに記した。

さて、本のタイトルは、

『笑える! 世界の七癖 エピソード集』(PHP新書)です。

 http://www.amazon.co.jp/%E7%AC%91%E3%81%88%E3%82%8B-%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E4%B8%83%E7%99%96-%E3%82%A8%E3%83%94%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%89%E9%9B%86-%E5%B2%A1%E5%B4%8E-%E5%A4%A7%E4%BA%94/dp/4569773036/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1255073702&sr=1-1

来週後半くらいから全国の書店に並ぶと思います。

どうぞよろしく!

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